天使なんていない | |
4.誓い | |
「亘……」 ほっとしたような声が耳元で聞こえた。 「え……?」 考えが纏まらない。 「あ、っつ!」 左腕を動かそうとして、痛みが走った。 「動かすな。傷が開く」 「え?」 ――この声は……。 「……龍一?」 消えないように、夢なら醒めないように、そっと呼びかけてみる。 「そうだよ」 「……なんで…?あれ?」 焦る気持ちが余計に思考をかき乱す。 「え?え?」 「亘、落ち着いて。順番に考えよう」 パニック状態になっているのがわかった龍一が提案し、亘は素直に頷いた。 「まず、熱を出した俺を亘が拾った」 「うん。雨が降っていて、熱がすごくて大変だった」 「そう。それから、3日ほど、俺は亘の部屋にいた」 「うん」 「そして、俺は少しの間、部屋を出た」 「少し?」 ――少しだったっけ? 口の中で呟いてみる。 ――龍一が出ていって、俺は辛くて泣いて…… そう。それで、その直後、正則が来て……。 「あ!」 急に記憶が鮮明に思い出された。 「俺、死ねなかったんだ……」 「当たり前だ。死なせてたまるか」 「え?あ、龍一が助けて?」 「そうだ」 「だめだよ!」 がばっと起き上がると、一瞬、頭が揺らいだ。 「急に起きるな」 「だめだよ」 「何が!?」 「だって、だめ。俺と一緒にいたら、巻き込む」 「藤堂組のことか?」 「そう!」 「それならば、問題ない」 「問題ない?」 「藤堂 正則には、きちんと『亘はもらう』と言った」 「え?もらう?」 「そう。藤堂 正則は藤堂組から勘当されたよ」 「正則が……。え?じゃあ……」 「そう。もう自由だよ」 「あ、俺……」 「愛してるよ、亘」 「え?」 「愛してる」 「嘘だ……」 「嘘じゃない。亘。お前が雨の中、路地裏で俺を拾ったんだ、最後まで面倒見ろよ」 とまどった紅い瞳が龍一を捕らえる。 「愛してる。亘は?」 「……ってる」 「え?」 「決まってるだろっ!俺も、愛してる!!」 傷ついた左腕にも構わず、龍一に抱きつく。 「う、んっ」 すぐに口唇は塞がれ、口腔をまさぐられる。 「んっ、むぅ」 舌を絡め取られ、強く吸い上げられる。 背筋がビクリと震え、龍一の背中にしがみつく。 「あ……」 一旦、口唇が離れる。 「もっと……」 蕩けるような声で囁かれて、龍一は止める術を放棄した。 やんわりとその背をベッドに押しつける。 傷ついた左腕をそっと、少し離れた位置にくるように持っていってやる。 患衣の紐はすぐ解け、白い胸があらわになる。 「んっ」 耳たぶをかじられ、鋭く息を呑む。 まるで初めてのようなその仕種に、知らず知らずに龍一に笑みが浮かぶ。 亘自身も驚いているのだ。 「なんで?慣れてるはずなのに……」 「初めてだろ?」 嫉妬して龍一が声を荒げる。 「え?」 「好きな奴に抱かれるのは、初めてだろ?」 「あ……」 そうだ。正則もその前の男たちも、自分の欲望を果たすためだけに亘を抱いた。 相思相愛で抱き合うのは、初めて。 「龍一」 「俺のものに、なれよ」 「うん。なる。お前だけのものだよ、龍一」 「ああ」 「だから、約束して」 「なんだ?」 「龍一も、俺だけのものになって」 ふっと笑みが零れる。 「約束する」 「龍一、大好き」 返事は、首筋への熱いキス。所有の印をつけるために、きつく吸い上げる。 口唇を離せば、うっすらと薔薇色の印が残る。 そして鎖骨を掠め、胸の飾りを口唇に挟んだ。 「あ、ん」 舐め、転がし、吸い上げ。 思う存分、味わう。 「やぁ、そこ。いっちゃう……」 「もう?」 「だってぇ……」 苦痛を快楽にすりかえるのは、慣れている。 でも、ストレートの快楽を耐える術は知らない。 「あ、あ、ぅんっ」 再び、容赦なく吸い上げ、手のひらを脇腹へと滑らせる。 肌がわななく。 「やだっ、うそだ。こんなの知らない……」 ――こんな、優しくて熱い快感なんて知らない……―― わざと、ぴちゃぴちゃと音を立てて舐める。 その音さえ快楽へと導く。 モジモジと腰が揺れる。 患衣の前をすっかりと割ってしまう。 ちゅっという音を残して、龍一が顔を上げた。 「やだ、見るな……」 亘のソレはすでに熱く頭を擡げ、先端が潤みはじめていた。 やんわりと握ると、背がしなった。 「ふぅ、んっ」 「亘……」 「……やぁ、だめ、んぅっ」 緩く動かしてやると、たちまち涙を流しはじめる。 ちゅ、くちゅ、という音がする。 「……あ、ん…くぅ、んっ」 「亘、イって」 「やだぁ…」 頑是なく首を振る亘。 龍一は躊躇いなく、亘を熱い口腔に含んだ。 「ああっ!」 体中に熱が走った。 堪える暇もなかった。 龍一の口の中に放ってしまった。 「……う、っく…めん、りゅういちぃ」 舌っ足らずに謝る。 龍一は躊躇いなく、嚥下する。 口唇の端から零れたものを指で拭うと、亘の患衣を元に戻そうとする。 「何で?」 「これ以上は傷に響く」 「いい!」 「え?」 「それでも、いいからっ」 「亘……」 「だから、だから……龍一が欲しい…」 ジーンズの前に手を伸ばすと、やはりソコは熱く滾っていた。 「龍一ぃ……」 甘く掠れた声でねだり、その手は触れるか触れないかのギリギリのラインで龍一をまさぐる。 そこまでされて、耐えられるワケない。 「っ!知らないからな、どうなっても!?」 乱暴に亘の足を割る。 そして、膝を折り曲げ、容赦なく広げさせる。 「龍一!」 自分から仕掛けたこととは言え、羞恥が襲う。 まだ、ソコは正則によって受けた傷が生々しく残っている。 それを癒すかのように、ねっとりと優しく蕾を舐めてやると、案の定、亘は甘い声を漏らした。 「あっ、あぅ…りゅ、いちぃ……」 襞を丁寧に舐めてやると下肢がどうしようもなく揺らめく。 舌を潜り込ませれば、待っていたとばかりにヒクつきはじめる。 「りゅういちぃ、はやく……」 「だめだ」 「なんでぇ?」 「まだ、キツい」 「いやぁ……。あ、うん…くぅ……」 慎重に、傷を開かせないように指で穿つ。 ソコは、熱く締め付ける。 「あ、あ、あぁ、う、んっ……いちぃ」 亘は右腕を伸ばすと、もどかしいそうにジーンズのジッパーを下ろした。 「亘……」 やんわりと押し留められる前に、望む龍一のソレに触れる。 予想通り、ソレは熱く滾り、涙を流していた。 「りゅういちぃ……」 薄く瞳を開け、龍一を見上げるとソレがドクンと脈をうった。 「いれてよぉ、りゅういちぃ……」 ――限界だった。 穿っていた指を引き抜くと、自分自身をソコへあてた。 「う、あぁぁぁぁぁぁ……」 一気に貫かれ、鋭い痛みに続いて鈍痛が襲う。 しかし、それを凌駕するほどの快楽。 心が通じ合っている者同士のセックスは、例え痛みを伴っても、それを凌駕する快楽があるのだ。 「あ、あ、、うっ、んん!」 突き上げられ、声が止まらない。 その時、亘の中の龍一が、何かを見つけた。 それを、先端でくりゅっといじってやると、その体が大きくのけぞった。 「あぁぁっ!!だめ、……っちゃうぅ…あ、あ、りゅ、いちぃっ!」 ビクビクと体を痙攣させながら、精を放つ。 その衝撃で、きゅう、と熱く締めつけられ 「くっ!亘!」 耐える間もなく、亘の中に放つ。 一瞬、意識が白くなる――。 荒い呼吸が病室を不似合いな空気に染める。 「んっ」 ずるりと引き抜くと、亘の背が震えた。 それを宥めるように抱きしめてやる。 左腕に目をやれば、白い包帯に薄っすらと血が滲んでいた。 「大丈夫か?亘」 「ごめんね……」 「え?」 「ごめん。俺、龍一の天使になれなかった」 「ああ…。天使なんかいないよ」 「え?いないって?」 「天使なんかいない。この世界にいるのは、誰かを愛して、誰かに愛されて、そして、自分のためと大切な人のために、強くなれる――人間だけだ……」 「龍一」 「愛してるよ、亘」 「ずっと?」 「ああ」 「ずっと、一緒にいてくれる?」 「ああ。誓って」 右手を取ると、中指の付根にキスをする。 「生涯に誓って、愛し続ける」 「俺も誓う」 「亘……」 「俺も、龍一だけ。龍一だけを愛することを誓う!」 ――何の証もない誓いだけど、それは久遠の誓い。 決して、離れない。離さない。 この世に、天使なんかいない。いるのは……人間だけ――。 END |
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