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皐月学園不可思議倶楽部 |
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「萌葱嬢!!」 「おや」 隼斗の鋭い声に、のんびりとした声が応えた。 「萌葱様!」 キュルと琴糸が鳴りながら、手の甲に剛毛が生え節くれだったごつい手に巻きついた。 空間が歪み、その歪みから出てきた醜い腕は、その鋭い爪先で萌葱の腹部を抉ろうとしていた。 のんびりとした声とは裏腹に、萌葱の体がふわりと下がった。 その動きと同時に、朱音が放った琴糸がピンと音を立てて切れた。 「エート、コレガ鬼、ネ?」 発音の怪しい日本語。マリアは初めて見る東洋の怪物を、興味津々に見上げる。 空間の歪みはますます大きくなり、遥か古代より「鬼」と呼ばれてきた異形の怪物の上半身が抜け出してきた。 「何故、こんなに大きな歪みに気づかなかったのでしょうかねぇ」 ため息混じりに言い、悠悧が肩を竦めた。 「ここの区域の監視はマリアの担当ではなかったか?」 抑揚のない萌葱の言葉に、マリアはすっと視線を逸らした。 「マリア嬢?」 悠悧が静かに問う。 「ぐ、ぎゃぁぁぁぁ!」 じゅうと何かが焦げるような音と共に怪物が叫んだ。 マリアの手に透明な液体が入った小瓶。 「聖水ガ、ドンナ怪物ニモ効クカ、タシカメタカッタ、ネ」 サファイアブルーの瞳が悪戯げに、ウィンクする。 「マリア!」 「オウ!アカネ、オコラナイ、ネ」 マリアが首を竦める。 「しかし、聖水の効力を試すにしては、また大物をだしてしまったものだな」 萌葱の独特な抑揚のない声が仲間割れをしている場合じゃないことを告げる。 今の攻撃で、鬼は完全な戦闘モードになっている。 「ふしゅるるる」 鬼が全身に怒気をはらませ、息を吐く。 その汚臭に、朱音はうんざりと顔を背けた。 「仕方ない。鬼退治といくかっ!」 隼斗の一喝に、5人は一気に緊張感を漲らせ構えた。 ++++++++++ 放課後の生徒会会議室――。 |
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